LOGINフィオナが王城に間借りしてから二日。
俺たちはまだ適切な関係を守っている。彼女のことも守ろうと誓った俺であるが、やはり踏み込む勇気が足りていない。
まあそれで、俺は父上ことシルヴェスタ王陛下に呼び出されていた。色々と悩ましい問題を抱えているというのに、一体何の用事だろうな?
「ルカ、お前は何という馬鹿な行いをしたのだ?」
開口一番、俺は馬鹿だと罵られている。
父上、そんなことは重々承知しておりますけれど、俺だって精一杯に王子を演じているのですがね?「何事でしょうか? 俺が何をやらかしたというのです?」
まるで意味が分からない。
フィオナとはまだ何の関係もないのだ。馬鹿な行いといわれても、ピンと来るはずがない。「分からんのか? お前は聡明な人間だと考えていたのだがな……」
嘆息する父に俺は小首を傾げている。まるで想像できないのは父上が話すように俺が馬鹿だからかもしれない。
「フィオナ殿下に側室を要求しただろう?」
わたくしは皇都ミラグレイスまで戻ってきました。 道中はずっと泣き続けたわけですが、今はもう気持ちを切り替えています。「お父様!」 無作法にもノックすらせずに、お父様の執務室へと入ります。「おお、フィオナ。戻ってきてくれたか!」 暢気な顔を見ると、流石に苛っとしますわね。 わたくしは愛する人に命を助けられ、逃げ延びてきたというのに。「お父様のことは大嫌いですわ!」 ずっと言いたかった。わたくしの気持ちを確認することなく、破談にしてしまうなんて。 急に戻れというものだから、ルカ様が犠牲になったのです。「藪から棒に……。どうしたというのだ?」「どうしたもこうしたもありませんわ! お父様が戻れと命じたから、ルカ様が犠牲になったのです!」 そもそも側室に関しては、わたくしが許可したのです。お父様がしゃしゃり出る必要なんてございませんの。「ルカ殿下が犠牲? 一体どういう話なんだ?」「わたくしは帰路において、ファイアードラゴンに襲われたのですわ! 大半の兵を失った頃、ルカ様が追いかけてくださり、わたくしたちを逃がしてくれたのです!」 一部始終を説明する。 強大な火球を吐くファイアードラゴンの出現から、ルカ様の登場まで。 たった一人でファイアードラゴンの相手をし、わたくしたちが逃げる隙を作ってくれたことを。「なんと……。それはまことか!? たった一人で竜種と戦ったというのか!?」「皇国の誰に同じことができましょう? わたくしはやはり彼のことが好きです。そもそも言い付け通りに戻ろうとしたわけではなく、婚約破棄の撤回を求めようと帰ってきたのですわ」 頭を抱えるお父様。そりゃそうでしょうね。 話し合うことなく一方的に婚約を破棄した結果が、同盟国の王子殿下を死に追いやったわけですから。「お父様は出来る限りの賠償を願いますわ。あと、わたくしはもう誰とも結婚いたしません。一生涯純潔を守りたいと存じます」 困惑するお父様ですが、言いたいことは
ようやくと俺の願いが通じたらしい。フィオナを乗せた馬車が動き始めていた。「さてと、このトカゲをどうすっかな……」 何度も斬り付けたけれど、ダメージはしれている。決定的な手傷を負わせるのにはレベルが低すぎた。 一瞬のあと、ファイアードラゴンが火球を吐く。 それを喰らえば俺は天に還るはず。確実な死が待っているだけだ。しかし、簡単に失っていい命なんか持ってねぇよ。「ブレイブシールド!」 即座にレベル30で覚えたブレイブシールドを使用。 光の盾は難なく火球を受け止めている。ゲームにおいて、とても使い勝手の良かったこのスキルは現実世界でも効果抜群のようだ。「どちらも決め手がねぇな? トカゲちゃん、ここは痛み分けってことにしない?」 問いかけるも無駄なことだった。火球を無効化されたというのに、ドラゴンは大きく咆吼している。 まいったな。戦意は俺よりも充分らしいぜ。「ちくしょう!」 再び斬りかかっていく。 せめてレベル40になれば攻撃スキルを覚えるというのに、今のレベルは36。バフ効果スキルしか俺は使えない。「リィナがいたら勝てただろうけど……」 やはりソロプレイは難易度が高い。しかも弱っちいものだから、ファイアードラゴンに勝てる見込みなどあるはずもなかった。 ま、現状を嘆いても仕方ない。可能な限りに斬り付けてはドラゴンが去って行くのを待つだけだ。 単調な攻撃だったマステルにはカウンター攻撃が有効であったけれど、巨大なファイアードラゴンに対して俺は適切な攻撃方法を持っていない。「そういや、賢者はどうなってんだ?」 ずっと勇者にしていたけど、俺はここで賢者の中身を見てみることに。 シリウスは戦闘向きではなかったものの、何かしら戦う手段があるのかもしれない。「ステータス!」 走り回りながら、俺は賢者にジョブチェンジしてみる。恐らくは幾らか戦わなければ、今のレベルに見合ったスキルを覚えないはずだ。「うおっ!?」 戦闘
「間に合えぇぇっ!!」 俺は火球を吐くファイアードラゴンに飛びかかっていた。戦法とか考えていなかったけど、一刻の猶予もなかったんだ。「クソがぁぁっっ!」 力一杯に愛剣を振り下ろす。 それ以上、火球を吐くんじゃねぇ。てめぇの先にいる人は大切な人なんだよ!「フィオナァァアアア!」 颯爽とドラゴンの眼前に立つ。 俺はようやく追いついていた。彼女がまだ生きているうちに参戦できたんだ。「ルカ様!?」 とりあえずは良かった。 俺は謝罪を並べるつもりだったが、この場面でできる償いはそれじゃない。「逃げろ! 俺が時間を稼ぐ!」「嫌ですわ! わたくし、貴方様にまた会いたいと願っていたのです!」 まったく上手くいかねぇな。俺は恐らく時間稼ぎしかできないってのに。 俺には烈火無双があったけれど、ファイアードラゴンに対しての効果は限定的。火属性である烈火無双はトドメを刺すまで至らないはずだ。「フィオナ、俺は君に謝りたい。酷く傷つけたことだろう」「そんな!? わたくしこそ申し訳ございません! 必ずやお父様を説得しますから!」「その必要はねぇよ。もはや俺たちはここまでだ。早く馬車を動かせ……」 再びドラゴンに斬りかかっていく。せめてフィオナが逃げ切れるまで。 俺は消し炭になったとして、剣を振り続ける必要がある。ただ贖罪のためだけに。「ルカ様、援護します!」「駄目だ、逃げろ! 近衛兵、馬車を動かせぇええ!」「貴方様を置いて、逃げたくありません!」 何て聞き分けの悪い姫君なんだ。 俺は最善を選択している。今回に限り、間違いはない。 だから、声を張るんだ。強情な姫君に言いきかせるように。「逃げろっつってんだろ!!」 ◇ ◇ ◇ わたくしは怒鳴られていました。 流石に戸惑う。わたくしも戦いたいと考えていますのに。「殿下、ルカ
お父様に婚約破棄を命じられ、わたくしは失意の中で帰国の途に就いております。 全てを伝えたことを後悔するしかない。側室については、わたくしが提案したことですのに。「フィオナ様! 上空にドラゴンが飛来しております!」 溜め息ばかりついていたわたくしに、後方の車列から大きな声が届く。 え? ドラゴンってなんですの? 飛来ってどういうことです?「嘘っ!?」 大空を覆うような影。途轍もなく巨大な影が上空から迫っていました。 どう考えても、わたくしたちの車列を狙っている。荒野を真っ直ぐに伸びる街道には、わたくしたちしかいないのですから。「姫様の馬車を前に! 兵は下車をし、足止めを!」 瞬時に近衛兵のアンナが命じます。 足止めとはそのままの意味なのでしょう。あれ程までに巨大な魔物を討伐できるはずもないのです。「アンナ、わたくしにできることはございますか!?」「殿下はこのまま乗車していてください。兵たちがどれだけ持つのか不明です。出来る限り、距離を取ります。見逃される可能性にかけるしかありません」 どうやら兵たちが助かる見込みはないみたいです。アンナは彼らを犠牲にして、わたくしを逃すつもりのよう。「わたくし、精霊術の力を女神様より与えられておりますの!」「殿下は戦闘経験などないでしょう? 付け焼き刃の戦法でどうにかなる相手ではありません。自重してくださいまし」 一瞬のあと、後方に火柱が立ち上りました。 それはまるで炎の壁。足止めをするという数台の馬車は瞬く間に焼かれています。「これは……?」 何という運命の悪戯でしょうか。 お父様に帰国を命じられていなければ、今もわたくしはクリステラ王城にいたのです。好きになった人の隣で笑っていたことでしょう。「ルカ様……」 意図せず涙が零れてしまう。 わたくしは命じられたから帰国したわけではなかったのです。お父様に考え直してもらうよう、わたくしの想いを洗いざらいぶつけるつもりでした
フィオナが王城に間借りしてから二日。 俺たちはまだ適切な関係を守っている。彼女のことも守ろうと誓った俺であるが、やはり踏み込む勇気が足りていない。 まあそれで、俺は父上ことシルヴェスタ王陛下に呼び出されていた。色々と悩ましい問題を抱えているというのに、一体何の用事だろうな?「ルカ、お前は何という馬鹿な行いをしたのだ?」 開口一番、俺は馬鹿だと罵られている。 父上、そんなことは重々承知しておりますけれど、俺だって精一杯に王子を演じているのですがね?「何事でしょうか? 俺が何をやらかしたというのです?」 まるで意味が分からない。 フィオナとはまだ何の関係もないのだ。馬鹿な行いといわれても、ピンと来るはずがない。「分からんのか? お前は聡明な人間だと考えていたのだがな……」 嘆息する父に俺は小首を傾げている。まるで想像できないのは父上が話すように俺が馬鹿だからかもしれない。「フィオナ殿下に側室を要求しただろう?」 言われて気付く。 そういや婚約早々に俺はリィナのことが好きだと言ったのだ。それでフィオナが提案をした。リィナを側室にしてはどうかと。「皇王陛下は激怒されたようでな。本日予定されていたグラハム教皇への報告も取りやめとなった」 まるで言葉がない。弁明の余地すらなかった。 やはり俺は馬鹿なのだろう。順追って伝えるべき話を二段飛ばしにした結果、王国として救世主として最悪の展開を招いている。「つまり婚約は白紙に戻された」 俺は目先のことばかり考えていたんだ。 つまりイステリア皇王陛下の心証まで考えていなかった。一人娘を嫁がせるというのに、いきなり側室を要求するのは明らかに間違いだ。即座に撤回されるのは自明の理である。「あれ程までに器量の良い姫君が第二王子で構わないと仰ったのだぞ? お前は何を考えている?」「父上、俺は本心を告げただけです。リィナを愛していると……」 弁明など意味を成さないのは分かっている。だけど、俺は伝えておきたい。俺
俺は結婚することになってしまった。 リィナが聞けば卒倒しそうな気もするけれど、それは彼女のためでもある。 どうせ時間の問題でもあるし、前倒しにして悪くなる現状は一つとしてなかった。「それでフィオナ、俺は君に頼みたいことがある」 結婚の約束をしたことだし、少しくらい要求しても構わないだろう。 戦場に出て欲しい。たった一人の後継者であることは知っているけれど。「分かっておりますわ。ルカ様のことは全て承知しておりますの。元より、戦いは覚悟しております」 前世界線で伝えたからだろうか。彼女は戦場に身を置くことを覚悟しているらしい。「ベッド上での仁義なき戦いについては……」「ちがぁぁぁう!!」 どうやら美の女神の成分が出てしまったようだ。やはり本質はシエラが語ったままなのかもしれない。「俺は君が戦場で戦うことを望んでいる。イリア様に聞いていないか? エクシリア世界は考えているよりもずっと、終末へと進んでいるのだと」「本気なのでしょうか? 大戦への参加が許可されるとは思えません……」 まあ、そう考えるわな。 俺が知る世界線でもアークライトの死が背景にあったのだ。しかし、裏を返せば、フィオナの強い意志が反映されるということでもある。 周囲を黙らせるほどの決意をフィオナが露わにしたのであれば、きっと叶う未来だと俺は考えていた。「許可されるよ。それは君次第だ……」「わたくし次第?」「俺は四月から双国立騎士学校へと入る。女神の使徒として世界を救うんだ。誰が止めたとしても、それだけは譲れない」 彼女も使徒であるのなら使命に気付いているはず。皇女殿下だからと、逃げられる道ではないのだと。「貴方様は王子殿下なのですよ? 王家の務めはアークライト殿下が成されるはず」「表向きの話じゃない。俺は王家とか関係なく、救世主として選ばれた。戦える加護を持つというのに、安全な王城で庇護されているなんて嫌だ」 俺の話はそのままフィオナにも当て嵌まる。立場と使命のどちらを取るかで、存在場所が明確になるってこと。「精霊術士が共にいたのなら本当に助かる。もし君が戦わないというのなら、俺は死を覚悟しなければならなくなるだろう」「脅しですか? それに君とかいわないでください……」 要求を投げかけるだけでは駆け引きとはいえないんだ。 よそよそしい呼ばれ方が







